2025年を振り返って

2025年を振り返ると、演奏活動の成果を並べるというよりも、これまで自分が続けてきたこと一つひとつについて、その意味や立ち位置を確認する時間が多い一年だったように思います。演奏、制作、教育、そして運営。それぞれは別の仕事のようでいて、実際には同じ問いの延長線上にあるものだと、あらためて感じるようになりました。

演奏活動としては、ソロ、デュオ、アンサンブル、歌との共演、現代作品まで、内容としては幅のある一年でした。横浜でのギターデュオ・コンサートに始まり、仙台でのヴァイオリンとの室内楽、久保田洋司さんとの「ヨウジとわたし」関連ライブ、秋にはスペインギターフェスタ結成10周年記念コンサート、Acoustic Ladylandの10周年ライブなど、性格の異なるステージが続きました。どの公演においても、今の自分はこの音楽とどう向き合っているのかを意識しながら舞台に立っていたように思います。

6月20日に行われた尾野薫 追悼コンサートは、特に印象深い公演でした。追悼という場においては、演奏の完成度以上に、ギターを通して築かれてきた人と人との関係、時間の積み重ねの重みを強く感じます。自分が音を出せているのは、多くの先人たちの仕事や思いの上に立っているからこそであり、そのことを静かに確認する一日でした。

また、松岡滋 作曲作品展への参加は、「今、この時代にギターを弾くとはどういうことか」という問いを、非常に具体的な形で突きつけてくれました。現代の作曲家がギターという楽器に何を見ているのかを受け取り、それを演奏家としてどう音にするのか。伝統的なレパートリーとは異なる思考が求められる現場で、自分の立ち位置を見直す機会になりました。

同様の感覚は、「ヨウジとわたし」のCDリリースおよびレコ発ライブでも強く意識されました。クラシックギターという楽器を用いながら、必ずしもクラシック音楽の枠に収まらない音楽を、どのように形にし、どのような距離感で届けるのか。録音という形で音を残すことも、ライブで聴衆と時間を共有することも、作品を完成させるというより、今の自分が何を大切にして音を出しているのかを確認するプロセスだったように思います。

こうした演奏活動と並行して、2025年からは神戸FM MOOVでラジオ番組「クラシックギターと私」のパーソナリティも担当しています。公開収録という形式で、ゲストと対話しながら演奏を行い、音楽の背景や考え方を言葉にしていく番組です。公開収録後の演奏パートはYouTubeにも公開しており、完成された演奏を提示するというより、思考と実践の過程を共有する場として位置づけています。

教育の現場についても、今年はあらためて考えることが多い一年でした。自分にとって「教える仕事」とは、技術を効率よく身につけさせることだけを指しているわけではありません。もちろん基礎や合理性は重要ですが、それ以上に、音楽とどう向き合い続けるか、自分自身で考え続けられる状態をどう作るかを大切にしています。正解を提示することよりも、問いを共有し、考える視点を渡すこと。それが結果として、長く音楽を続けていく力につながると考えています。

また、2025年は、公益社団法人日本ギター連盟の代表理事としての仕事についても、これまで以上に向き合う時間が多くありました。コンクールや演奏会、若手育成、国際交流など、個人の活動とは異なる視点で、日本のクラシックギター界全体を見渡す立場にあります。自分が弾くことと、誰かが弾く場を整えること。その両方をどう同じ方向に向けていくかは簡単ではありませんが、だからこそ意義のある仕事だと感じています。

代表理事としての仕事は、決して目立つものではなく、調整や判断、説明や合意形成といった地道な作業の積み重ねです。ただ、その一つひとつが、ギターを弾く人、学ぶ人、聴く人の環境につながっていると考えると、自然と責任の感じ方も変わってきました。今年は、演奏家としての自分と、教育者としての自分、そして組織を支える立場としての自分を、どう無理なく重ねていくかを考え続けていたように思います。

2025年を通して感じているのは、弾くこと、考えること、教えること、支えることが、以前よりも一本の線としてつながってきたということです。なぜこの音楽を選ぶのか、なぜこの形で伝えるのか。その理由を自分の中で説明できないものは、少しずつ選ばなくなってきました。

クラシックギターは、特別な場で特別な人だけが聴く音楽である必要はありません。日常の延長線上で、考えながら付き合っていける音楽であってよい。その距離感をどう作るかが、今の自分の大きな関心事です。2025年は、その輪郭が少しずつはっきりしてきた一年でした。

来年もまた、ギターを弾き、考え、教え、支えながら、歩みを進めていきたいと思います。本年もありがとうございました。来年も富川勝智をよろしくお願いします。

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