富川勝智初のソロアルバム「組曲 プラテーロとわたし」の録音セッションの様子を記録しておきます。食べ物記録も多めです。
ファーストセッション2018/07/02-2018/07/05
場所:庄内町文化創造館 響ホール
2018/7/1初日(酒田入り)
OMFレーベルの主宰でありエンジニアである小坂氏のレコーディングは「美味しいものを食べて、気分を録音に集中させる」というポリシーがあります。初日セッション前にとりあえず酒田観光だーと言うことで、あれこれ満喫。
酒田のお寿司の名店「鈴政」さん。いやあ、酒田の海の幸侮れません。
食後は夜の酒田散策してから、老舗バーの「ケルン」へ。日本最高年齢のバーテンダーさんが作るカクテルは、本当に繊細な味でした。
穴場だぜ、酒田。
2018/7/2 マイクセッティング
酒田から移動して、庄内へ。さて、レコーディング初日です。マイクセッティングに時間をかけます。と言うよりは、「時間がかかるであろう」という想定で、まるまる4日間という日程設定してあります。通常であれば二泊三日くらいでとっちゃいますから。その場合はマイクのセッティングはエンジニア氏の「決めうち」であることが多いのです。アーティストは現場ホールに入って椅子に座って弾くだけ。
会場は庄内にある響ホール。ギターには最適な音響だと思います。そこに入って、六時間くらいかけてマイクセッティング。基本的に、近接、中距離、アンビエンスという三つの位置でマイクをセッティングします。
まずは楽器の「音が抜ける」向きを決める。この響ホールの場合は舞台を横に使うという結果になりました。そこからそれぞれのマイクの位置を変化させながらテスト録音。音は空間を「動いていきます」。その時間を加味してそれぞれのマイクの位置を決めていきます。
僕が理想としているのは近接の音とお客さんが聴いている音のミックスされたものです。普段、ギタリストは手元でなっている音を聴いています。それがホールでどのように響くかを想像しながら。でもクラシックギターには爪が弦に触れる瞬間や音がでた瞬間の「美しさ」もあります。例えば小さな部屋で目の前で演奏されているギターの音。それはそれで「くっきりとした」力強さがあるのです。
そして、お客さんが客席で聴いている「空気の層を突き破ってきた」音があります。それはまろやかで、透き通っているはず。普通の録音ではそのあたりを狙って収録しているはずです。でも、それならコンサートで聴けば良いよねえ、と思うわけです(ひねくれ者)。そして、演奏会場で聴いているものそのままをCD盤面に閉じ込めるのは「作品」とは言えない。だったら、「録音する人はプラス2000円払ってください。それで演奏会をそのまま録音して、うちで聴いても良いですよ」って方式にすれば良い。今は個人レベルでもまあまあ良いレコーダーは買えますし、「演奏そのまま(お客さんが聴いているそのまま)」を盤面に閉じ込めるのであれば、わざわざ録音物を作る必要なんてないんです。
録音盤の音はイマジナリーな物で良いのです。僕が心の中で描いている「クラシックギターの美音」を閉じ込めればそれで良い。録音でしか聞くことができない音質のものを残したい。
なので、マイクセッティングはそのイメージへ近づけるように丁寧に時間をかけてやりました。マイクプリやケーブルを変えるだけで音は激変します。
そんな感じで初日は終了。足台がわりに「箱うま」を通常の足台ではキシキシ言うので。
2018/7/3
朝からひたすらレコーディング。お昼は鶴岡に行って「麦きり」食べました。うん、なかなか良いお味!
2018/7/4
レコーディングもこの日程くらいになると、会場にも慣れてきます。庄内ってのは米どころ。周辺は田園風景です。ある意味でこんな所によくホールなんか作ったなあと。
お昼はエンジニア小坂氏曰く「日本一美味しいエビフライ」をだす店へ。僕は海老ちょっと苦手なので、唐揚げ定食食べましたが。割とこの日程くらいになるとレコーディング疲れが出てくるのです。今こうやって思い出してみると、わざわざ車でちょっと遠出して美味しいものを食べるって言うのは、気分転換と耳休みに良いのですよね。
つめつめでセッションをやっていくより効率とかクオリティの面では良い方向に動いていくことが多い。でも、それは割とあとで気づくことなんですよね。
2018/7/5
レコーディング大詰めです。季節は夏です。ホールに自動で空調が入るのですが、実はそれが結構問題で、水冷式なのです。なので、温度が下がるのは良いのですが、湿度が上がるのです。上がると一気にギターの音がぼやけてくるのです。
椅子の奥に見えるのは除湿機。お昼を食べに行っている間とかは回しっぱなし。近くに湿度計も置いてPC連動でログをとって「今録れるかな?」って時に録っていくのです。この除湿機が侮れなくて、70パーセントくらいまで上がっているのが、良い感じで45パーセントくらいまで下げることができるので、頑張ってくれたなあと。
そして、この地域でラーメンと言えば!!!!「ちどり」へ。ふつーの中華そば、最強です。
軒下にはツバメちゃんたちが。可愛かったなー。
そんな感じで、食べ物とかツバメちゃんたちで癒されつつ、湿度も調整しつつ、レコーディング進めてまいりました。
2018/7/6
このあたりで、今まで録音したものの整理を。これ入れたいなあーってのも省き、他の曲を入れたくなったりするものです。ああ、録音って生き物だなあー。でも、それで良いのだと思います。現地で録ってものをプレイバックしてみて、これは無理に入れる必要ないなあーとか、この流れならこれ入れないなってなってくることはあるのです。
このあたりで予定曲を全部録りきることに固執せずに、丁寧に成立させているものをさらに丁寧に録っていくと言う方向に舵をきることにしました。
まあ、なんと言うのか、録音っていうのは弦を消耗します。そして、表面板もすり減る。。。フラメンコみたいに叩いている訳ではないのに。。。
ちなみにこの楽器はアルカンヘルという楽器で、表面板は一度も塗り替えていません。実は2019年秋に流石にやばりだろう・・・ということで塗り替え。そしたら、少し鳴りがすっきりとしました。でも、この2018年夏ごろが一番鳴っていた時期かもしれません。ギリギリ頑張ってくれていたのかもしれないなあと。この傷だらけの写真をみると、そう思います。
ということで、とりあえず庄内での録音セッションは終了。
酒田から新潟に向かう電車の中で出会った「鮭の酒びたし」。これは出会えて嬉しかった。
旅はやはりいい意味で良い食べ物に出会うのが大切ですよね。ということで、ファーストセッションは終了。少し時間を開けて、セカンドセッションは2019年年明けてからになります。
セカンドセッション2019/02/17-2019/02/19
場所:富士見市民文化会館 キラリ☆ふじみ
2019/2/17
セカンドセッションです。主に「プラテーロとわたし」組曲を中心に。いつものことながら、夕方からはマイクセッティング。
2019/2/18
がっちり録っていきます。そして、この日は録音作業と共に写真撮影も。ジャケット写真ですね。ずーっと録ってもらいたかった「おのしの」さんに頼みました。想像以上のクリエイティビティ!
カメラマンおのしのさんと記念撮影!
2019/2/19
とりあえず録りきりましたー(多分)。
サードセッション2019/02/22
場所:神奈川県立相模湖交流センター
セカンドセッションを仮編集してみて、なーんとなくスッキリしないところがあるので、本当に一日だけ追加セッション。二曲ほど集中して。平土間になる会場なので、今度は舞台上ではなく、普段はお客さんの座っているあたりで。
毎回向き違います。モニタリングして出来るだけファーストセッションの音には近づけていきます。それでも微妙な差異があります。作品を聴く方は「ここはあそこの音かな?」なんて想像して聴くにもありかなー?
相模湖交流センターにきたら、とりあえずダムカレーだよねー。
そういえば、OMFレーベルでの1枚目「Circulation」は相模湖交流センターで録ったなあーなんて思い出しました。
録音セッションの後の感想
いつも録音作業すると思うのがエンジニア氏たちの集中力と適切なディレクション。そしてスタッフさんの忍耐。
こうやって思い返してみると、三箇所で録るって贅沢だなあーなんて思います。まあ、スパッと決めたとしてもどっかで心残りってあるもんです。完璧なものを作ろうと思ったら100日くらい毎日録音しっぱなしって感じになるんじゃないかなあー 苦笑。jそんなことを感じます。
でも、どこかで区切りをつけて、素材が集まったらなあーってとこで、盤を作っていく作業に行かないと。予算もありませんしねー。
そして、OMF小坂氏の念入りなマイクセッティングは本当に助かるなあーと。「元がちゃんとした音になってないと後でどのようにもなりませんから」「富川さんが思っているギターの音にしてください」と。「録音前に考えていたこと」にも書きましたが、決め打ちのマイクセッティングとは違うリアル感が僕の中にはあります。おかげで僕が思っている「ギターの音」になりました。ありがたやー。
後、最初の酒田&庄内ってロケーションはとてもよかったですわー、旅行として。酒田は本当に食べ物が美味しい。なぜかワインも美味しい店がある。そして、そのお店の野菜がとーーっても美味い。そんな感じで夜はいい感じで息抜きできました。録音している現場って本当にシビアなので、良いロケーションって大事ですわあ。
そして、ジャケット写真を撮ってくれた「おのしの」さん。本当にポエティックで思索を感じる写真を撮っていただけました。色が綺麗!!!ってのが僕の生き方のポリシーでもあるんです、実は。洋服も割と綺麗な色が好き。ジャケット写真もモッサい黒白みたいなよくある「ダンディギタリスト写真」は嫌だったので。とにかく、色味が綺麗に…それでいてケバくなく、そしてアーティスティックに…と。
本当はインダストリアルアートっぽくしたい部分もあって、階段や非常出口的なところでも撮影セッションをしたのですが、窓から差し込む光をうまく利用して「嗚呼、ポエティック」って写真ができました。ギターの向きは逆向きにしたのは割と面白いアイデアでしょ? これはなかなか思いつかないと思います。部分で切り抜くと良い。これ大きめにみると、「なんで逆向きに持ってんのー?」ってちょっとバカっぽくなるのです。フレームって大切です。
ということで、「組曲 プラテーロとわたし」の素材ができました。後は編集を待つのみ。具体的には夏以降の動きとなりました。そのあたりは別ページで書きますねー。