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ソロ作品がない?

2000年に留学から帰国。そこからプロとしてやってきて2020年で20周年。演奏活動、録音活動、教授活動、執筆活動とあれこれやってきました。でも、クラシックギタリストとして何かが欠けているなーと思い続けていたもの…それが「クラシックギター独奏の録音」です。

2013年にギターデュオ、2018年にギタートリオ、2019年にギター5重奏と様々なレーベルからリリースしてきました。もちろん、商業作品としてはヤマハやシンコーミュージックの仕事でたくさんの曲集や教本の録音をしてきましたので、ソロ録音がないわけではありません。

とはいえ、私というアーティストとしてのソロ録音作品がなかったわけです。なので、20周年を迎える前に一つ作っておこうかなあと思いました。それで、数年前から構想を練り始めたわけです。

優れたソロ奏者は優れたアンサンブルプレーヤーである

クラシックギタリストというのは、優れたアンサンブル楽器ではありますが、やはり王道は「ギター独奏」ともいえます。アンドレス・セゴビアにしても、僕の師匠であるホセ・ルイス・ゴンサレス先生にしても、ほぼ独奏作品しか残しておりませんし。とはいえ、私個人の活動ポリシーとして「優れたソロ奏者は優れたアンサンブルプレーヤーであり、優れたアンサンブルプレーヤーは優れたソロ奏者である」と思ってきた面もあります。

たくさんのアンサンブルをやってきました。ギターはもちろん、他の楽器や歌とも。他のプレーヤーとのアンサンブルからはたくさんのものを学べます。歌心、フレージング、音色…ギター独奏からは学べないたくさんのものを共演する中で得られました。

だから、ソロ作品はある意味で今まで良い影響を与えてくれた演奏家への恩返しでもあります。亡くなってしまいましたが、たくさん共演した名フルーティストである山下兼司さんからはたくさんの影響を受けました。巨匠モイーズ譲りのフランスのエスプリ溢れる音色は、僕のレパートリーの演奏手法にも影響を与えていると思います。

僕のレパートリーはエドゥアルド・サインス・デ・ラ・マーサのものが多くあります。スペイン人ですが、フランス音楽やジャズのエッセンスを含んだ曲が多くあります。山下さんとよく一緒に演奏したラヴェルやピアソラのタンゴの歴史などでの、音色や曲へのアプローチが強く印象に残り、その影響は楽曲解釈の上で明らかにあるんです。

そのほかにも友人ギタリストからは他の共演者からもたくさんの音楽マナーを学んできました。だから、ギターソロこそ、そのアンサンブルで得た感覚を生かす場であるとも言えます。だって、クラシックギターは「小さなオーケストラ」なのですから。

優れたアンサンブルプレーヤーは優れたソロ奏者である

どう拍節感に則って、曲を進めていくか…そのことはアンサンブルをやりながら学ぶのが楽です。学びやすいのです。池田慎司くんとのデュオ演奏は、その実験の場であったかもしれません。池田くんとは数年間にわたって「あづみ野ギターアカデミー」という講習会をやっていました。毎年、講座をやっていましたが、それぞれの演奏についての考え方をまとめる良い勉強の場でした。

ビートや拍節感、リズム…音楽を生き生きとさせる諸要素について、アホみたいに語り合い、それを受講生との座学講座で言葉にしていきました。その結実としてCD「Circulation」があります。

もちろん、現場でディレクションおよびエンジニアを行なってくれたレーベルOMF主宰である小坂くん(ながーい付き合いなので敢えて「くん」付けで)の厳しいリズム指示やアドバイスがあって、さらにブラッシュアップされた部分も多く、池田慎司と富川勝智、両名共、新しいアンサンブル流儀を身につけることができました。

あれこれ考えてみると、結局、推進力を生む演奏というのは「音色感」がとても大切であり、無理矢理に「うねうねとリズムをくねらすことではない」ということがわかってきました。ビート感、拍節感、フレージング、リズムパターンをそれぞれ取り上げていけば、癖の強いものになっていきますが、それはデフォルメされたものです。それぞれを「絵を描くように」下地から上塗りしていけば、デフォルメされたものはそれぞれの角が取れて、柔らかくなっていきます。最終的にはレンブラントやベラスケスの描く絵のように「意外と平たいよね」という画面になるのではないかなあと。

そんな演奏が僕のソロ奏者としての現時点でのたどり着いた「落とし所」です。そんなソロ録音にはなってはいると思います。

録音を残す意味

最近は「録って出し」のレコーディングが多いように思います。

「撮って出し」とは僕の造語ですかね?…レコーディングの現場でエンジニアがあらかじめマイキングをしておいて、さあ弾いてみましょう&録りますよ!、で、完成…という流れの作品。でもこれは「録音作品」ではないんです。

様々な考え方の方がいるとは思いますが、録音物(音盤)というのは作品です。もっとわかりやすくいうとビルのような建築物です。設計士がいて、事前にリサーチをして。設計図があります。色々な計算をしてしっかりとした設計図を作る。

それでも、現場で設計図が完璧に機能しない場合もあります。やっぱり壁はこっちの材料の方がいいかなあ?とか。そういうのがある。それが録音をするってことなんです。

録音=recording=記録する、という発想であれば、奏者の現時点でのそのままを封じ込めるという発想でも間違いでもありません。でも、生演奏をそのまま封じ込めるということは、庭先で適当にテントを立てているようなものです。ビルは立たない。

何十年もその場に立ち、人々に愛されるビルディングを建てなければならない。それが「音盤」を作るってことなんです。

その意味ではポップスやロックの分野の方がその感覚をしっかりと持っていると思う昨今。スティーリー・ダンやビートルズや大滝詠一や山下達郎のような「構築物」をしっかりと作っていき、普遍的な名盤を作り出す感覚がクラシックギター界には欠けています。

もちろん、慌ただしいこの時代です。お気楽に編集してyoutube動画とかで「すげー!」って言われている時代です。そして、人件費もバカにならないのが「ちゃんとした」レコーディングです。それなりに3テイクくらい録って、良い部分くっつけって、はい完成!っていう流れが現在のレコーディングの基本ではあります。

でも、それでは本当に良いものはできません。3分の曲でも、半日かけてさまざまな試行錯誤をしながら作っていけば「ビル」は立ちます。そして、それは長いあいだ親しまれる録音になるはずです。

その意味で、今回のソロを録る時にエンジニアは小坂浩徳くんしかいないなあーと。この辺りのこだわりと、彼なりの音楽表現や再生音源への拘りはおそらく業界随一の頑固者のはずなので。

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